言語種別 日本語
発表タイトル 原発性胆汁性胆管炎におけるフェロトーシスの関与と今後の治療戦略
会議名 第61回 日本肝臓学会総会
学会区分 全国規模の学会
発表形式 口頭
講演区分 一般
発表者・共同発表者◎下田慎治
発表年月日 2025/06/06
開催地
(都市, 国名)
ホテルニューオータニ 東京 (東京千代田区)
概要 【目的】細胞死には突発的に出現するネクローシス以外に,独自の生物学的プロセスと病態生理学的特徴を持つプログラムされた細胞死としてアポトーシス,パイロトーシス,オートファジーなどが明らかにされている.近年細胞内自由鉄を触媒とする過酸化脂質の蓄積を特徴とする細胞死の一つの形態としてフェロトーシスが報告された.原発性胆汁性胆管炎(PBC)胆管細胞ではこれまでにフェロトーシスの特徴であるグルタチオン枯渇や細胞膜脂質の過酸化反応が明らかになっている.さらにPBC治療第一選択薬であるUDCAはフェロトーシスの根幹にある酸化ストレス緩和に重要な転写因子であるNRF2活性化に関与する.そこで今回我々はPBCでのフェロトーシス関連分子の評価を行った.
【方法】PBC模倣培養系を用いて様々な条件下での胆管細胞の網羅的アレイ解析を行った.その結果を用いてフェロトーシス関連遺伝子についてgene set enrichment analysis(GSEA)を行いPBCで重要であると予想されるフェロトーシス関連遺伝子を同定した.さらに同定遺伝子の発現を正常肝(n=6),PBC(n=42)の肝生検で得られた肝臓アレイデータを用いて比較した.
【成績】フェロトーシスGSEAでは疎水性胆汁酸+IFNGで刺激した際に最も強くフェロトーシス関連遺伝子が変動した.フェロトーシス関連遺伝子としてIDO1,ATF3,CHAC1が明らかになった.正常肝と比較するとPBC肝臓ではIDO1の発現は強く,ATF3,CHAC1の発現は弱くなっていた.
【考案】胆管でのフェロトーシスは疎水性胆汁酸+IFNG刺激で誘導されやすいことが明らかになった.さらにフェロトーシスに関連するIDO1は免疫調節因子,CHAC1はグルタチオン分解酵素,ATF3はストレス応答の転写抑制因子であり,PBC病態を強く反映していることが示唆された.IDO1発現増強やCHAC1発現減弱は病態を相殺する方向で変動していると考えられる一方で,ATF3発現減弱はストレス応答の転写を増強させて病態増悪を誘導するのではないかと考えられた.
【結語】PBCでのATF3発現をタンパクレベルで評価し,発現と病態の関与を明らかにする必要がある.炎症があるにもかかわらずPBC胆管細胞でのATF発現低下があれば,ATF3発現低下に関与する因子を明らかにするとともに,ATF3 inducerがPBC新規治療薬の候補になり得る.